江川卓『カラマーゾフの兄弟』は滋賀県立図書館にあります詳細を見る

    ドストエフスキーが教えてくれること

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    世の中には、ドストエフスキーについてドヤ顔で語る読者クラスタが一定数存在します。

    「自分はドストエフスキーの全作品を読破した」

    「自分はロシア文学に詳しい」

    なぜモーパッサンではダメなのか。イギリス文学よりロシア文学の方が上なのか。「ドストエフスキー」や「ロシア文学」に訳もなく脅威を感じ、読破できない自分にコンプレックスを感じる人も少なくないのではないでしょうか。

    昭和の頃から、日本には「ドストエフスキー信仰(ロシア文学全般)」が存在し、他の愛好家を圧倒してきました。長編小説といえば『風と共に去りぬ』や『レ・ミゼラブル』も大作なのに、この程度では仰ぎ見られず、なぜか『罪と罰』や『カラマーゾフの兄弟』の方が上なんですね。唯一対抗できるのは、ニーチェやショーペンハウアーといった独文学系でしょうか。

    得も言われぬ『ドストエフスキー信仰』に威圧され、『悪霊』や『地下室の手記』など手に取ってみたものの、何が面白いのかさっぱり分からず、「長い」「難解」「まわりくどい」という印象だけを残して、そのまま遠ざかった人も少なくないと思います。私もそうでした。初めて手に取ったのは中学生の時ですが、最初の数ページで早々と挫折し、本格的に読み始めたのは30過ぎてからです。それでも面白いと感じたのは『罪と罰』だけ。他の作品は相変わらず未読のままです。何度も読もうとするけれど、とにかく「長い」「難解」「まわりくどい」で、5ページ以上、先に進んだことがありません。仕事で疲れ切ったアタマには、『みるみる元気になる魔法の言葉』とか『あなたの夢を叶える10のメソッド』みたいな、軽いエッセイの方がはるかに胸に染みたのです。

    それでも子育てが一段落し、長編小説を読む気力も湧いてきた頃、長年の夢であった『カラマーゾフの兄弟(原卓也訳・新潮文庫)』に手を伸ばしました。その頃にはKindleも登場し、これならサクサク読めるかも、と思ったからです。

    と・こ・ろ・が。

    『カラマーゾフの兄弟』江川卓訳をお探しの方へ(原卓也訳との比較あり)でも書いているように、だんだん話を見失い、イワンとアリョーシャが神について語り合う場面、大抒情詩『大審問官』のあたりで完全に躓きました。もう何が何だか、さっぱり分からず、Kindleも途中で投げだしてしまったのです。しかし、このまま終わるのはあまりに悔しい。そこで副読本として江川卓の『謎ときカラマーゾフの兄弟 (新潮選書)』を取り寄せたところ、江川先生の訳文と解説の分かりやすいこと!

    「これならいける」と確信し、江川卓訳『カラマーゾフの兄弟』をネットで検索したところ、なんと廃刊。しかも中古価格は3千円~5千円(現在は3万円超え)。どうしようか、さんざん逡巡した末、思い切って購入し、一週間で全編を読破することができました。こんな面白い話だったのかと、今更ながら知った次第です。

    同じ海外文学でも、訳文と媒体(Kindleか、紙の書籍か)で、これほど印象も読解力も変わるものかと感嘆させられます。そして今も、これらの大作に挑戦しながら、途中で訳が分からなくなって、挫折する方も少なくないのではないでしょうか。しかし、そんな方でも、江川訳ならサクサク読めるはず。それくらい江川訳の分かりやすさは群を抜いています。併せて、「謎とき本」「ドストエフスキー解説本(これも廃刊)」を読めば完ペキです。皆さんの能力が足りないのではなく、現存の訳本と相性が悪いだけではないでしょうか。

    サルでもなければ、専門家でもない、私のような『文化的中間層』の方には、もっともっと自信を持って欲しいです。ドストエフスキーの一小節、ほんの一章でも面白さが分かれば、何年か、何十年後には、もっと大きな実を結ぶかもしれないからです。

    誰かにこっそり教えたい 👂
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